愛する人たち

ちょっとハズカシ。でも当時、身近な人に送った言葉の記録です。



一瞬の輝き
永遠の歌
悪循環〜がんばってきた世代に捧ぐ〜
ダメ主婦生活の1ページ
田舎道

てのひらにヒトシズク
誕生花

一瞬の輝き


それは私が社会人1年生のときのことだった。
ちょうど父はその年で定年を迎える年だった。
父が会社人として私の会社を訪れたことが何度かあったが、
私はまだその姿を目にはしていなかった。
私はそのことをどうということも思っていなかった。。。

ところがある日、私はデスクにつき計算機を叩いていたとき、
となりのとなりの部署から、出口に向かおうとしてる父の姿を見た
フロアは広く、かなり離れていたけれど、
父は私の視線にすぐにきづいた。
そして、書類を持っていた右手をさっとあげた
私は目で合図をし、廊下へと出て行く父をデスクから見送った。

次の瞬間、私の目は涙でいっぱいになった。
仕事場だというのに溢れそうな涙を抑えるのが精一杯だった

私は、私は、
父の働いている姿を始めて見たのだ!!!
なんと、尊い瞬間よ!

涙は溢れる代わりに体中を流れた。
父は毎日健康に会社に通い続け、
愚痴一つ言わず、60歳まで働き続けてくれた

なぁんにも言わなかった後姿
好きなだけ勉強も旅行もさせてくれた
そして今、私はここにいられる。。。

今でも私は父と社会人として出会った、
あの瞬間を思い出すと
涙があふれ出てくる。。。

父上様
感謝します
これからも元気でいてください。


永遠の歌


母よ、あなたが話せば日常は歌になる
それはコロコロコロコロと良い音のする歌

「ゆりちゃん!よーく生まれてきてくれたね!」
小さい頃、そう言ってよく抱きしめてくれた。
私は照れくさくて
その腕の中でジタバタしてた

でもその一言のおかげで
変わりモンの私がどんなにか安心して生きて来れたか!!

大人になりきれない私
心の叫びをあなたにぶつけた
「普通じゃなんかいられない!」
最初は驚き、とまどいながらも
最後には懸命に理解してくれようとした。
そこには命を懸けてでも、
守ってくれる強さが見えた

底の見えないくらい深い愛のなかでで育った私は
どんなにひねくれても、卑屈になっても
生きていること、自分の価値に自信を持って生きてこれた
それはその一言があったから

あなたの歌は終わらない
楽しいときも、つらいときも
あなたの歌のような話し声がするだけで、
何でも乗り越えられた
そして、きっとこれからも平和な日常が続いて行く

永遠に続く命の歌

母上様
感謝します
これからも元気でいてください



(2003年2月15日 結婚披露宴において)



悪循環〜がんばってきた世代に捧ぐ〜


出されたおかずに「うん」と低くうなずくと
君は相変わらず不満げで
無言で食事の時を過ごす

縁側でひなたぼっこ
洗濯物を干し、草木に水やる君の
セカセカとした動きが私を責める

このモヤモヤをどうにかしようとして
勇気をふるい一言
「誕生日に何がほしい?」
一瞬ピタリと動きが止まった
その後ポツリ
「定年・・・」

私はゆっくり立ち上がる
やれやれ
本当のそれの意味も知らないくせに
次の食事の時間まで
本でも読んでいよう・・・



ダメ主婦生活の1ページ


「今日は洗濯をしなさい」
そう言い残され、一人になった

しぶしぶカゴを運ぶ
「雨が降りそう」との言い訳が通用しないほど
衣類がいっぱい入ってる

アミに入れながら、なにげなく
Lサイズの白いポロシャツにおってみた

「くちゃい!!」
おっかしくって、空を見上げた

今日も早く帰ってこいこい


田舎道


みどりゆらゆら田舎道
光と熱を頬に受け
かざした手の隙間から
あおがゆらゆら初夏の空

アスファルトの下で囁く
君の思い出、空高く
ぐるりふらふら迷い道
見慣れぬ公園にぼやく一言

金髪大工の旧友が
瞳細めて声かける
肌のくろぐろ好青年
君の白さに笑い顔

都会の暮らしも夢の中
単線電車のうたう声

仏様に手を合わす
石の一つ一つに語りかけ
「よろしくお願いします」など
少し照れて呟いた・・・

大回りして帰り道
父母の呼ぶ声こだまする
シンシン心に響いてく
時の流れのやさしさが

いつまでも、いつまでも

てのひらにヒトシズク


私は偽善者だから、雰囲気で泣くことができる
想い出も少ないし
あなたの名を呼んだこともあったかしら
(眠り続けて眠り姫)
気弱になった父を癒す術も知らず
今日の空気と向かい合う

みぞおちより少し上のへんが
なんだかユラユラしてるけど
歩けば治るんじゃないかな

てのひらにヒトシズク
小さな重みを感じた
蒸気が飽和してたんだ
握りしめたその手には
私の中の暴れん坊と夢想家が同居して
いとおしくて胸に抱えた

いつ何時もあなたを肯定してた
それは私の体がそう言っている
でもその行為は一つの苦しみでもあった
それは、たとえどんなあなたであっても
私がこの世に生を受けた限り
決まっていた答えらしい

一瞬、海になりたいと思った
ユラユラが溢れ出し
私の体全てがアクアになって広がればいいと思った
そうすれば、あなたと向かい合わせになるのかな

でも私は、あと半世紀は固体でいなきゃいけない
あなたの一世紀に感謝して
てのひらの滴を握りしめて歩き出すよ・・・


(2003年6月9日 祖母、96歳にて永眠)



誕生花


細くてもしっかり咲く一輪

親友をHAPPYにしてくれた女神

その日からあなたも私の大切な親友

あなたが笑えば青空も喜ぶ

永遠に枯れることのない希望の花

ズット ソノママ カワラナデシコ・・・


(2003年夏、友人へ誕生日に)



ナハトムジーク


空に優しい星の楽団
届けてくれるよ、この部屋に
冬の空気はビブラフォンの音、よくはじく

スヤスヤ寝息を聞きながら
薄明かりの下、ペンが走るよ
このひと時をとどめておくかのように

いつか背中合わせになったら
このページを開こう
音楽が響いたら、きっと今と同じ気持ちになる

ペンが止まった
私は小さなアクビをする
明かりを消して、楽団に手を振った

大きな額にキスをして、今日の日に感謝を
布団にもぐりこんだら
永遠を願う心が震えるから
しっかり腕を組んで目を閉じる

演奏がまだ聞こえることに安心したら
私は眠りに落ちてゆく

グーテ ナハト・・・


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