軌跡

1996年5月〜1998年3月

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ずる休み 就寝 自由と真実 芸術 時間 孤独のうた ロボット  身のまわりを片付けて パステル 風の音は美し(うつくし)


ずる休み


平日、午後一時、ベランダ
ぬくもった布団にてんとう虫
満面の笑みでご挨拶
「こんにちはぁー、ひさしぶりやねー」
なんと特別な出来事
ありきたりな場面と知りながら
今の私にとって、なんと特別な出来事なんだろう・・・



 (96年5月)


就寝


また夜更かし 我に返る時間なり
そしてまた朝が来る
日々の憂いをあたためよう
そしていつか宙へと散らそう
そしてまた朝が来る
もう寝よう 我を忘れてもがくために
憂う我も夢見る我もしばし休ませてあげよう・・・

(97年3月)


自由と真実


外でも自由は見当たらず
家でも自由は奪われる
僕の自由はどこにある
僕の人生どこにある
僕の体はどこにある
僕の魂どこにある
それはいつもの紙の上
それはいつものペン先に
紙とペンとが触れるとき
すべてがそこにあふれ出る

真実はここ、真実はここ
だけど真実はここだけじゃない
僕の体のまわりにもあり
僕の見据える方向にもあり
僕の振り返る方向にもある
ああ、全ては真実・・・いや全てではない
無邪気にもかわいい、いたずらな嘘が時々顔をみせるから
真実はこうして生き生きと輝ける

この世を生きよう  美しいこの世界を
青空いっぱいに輝いて
青空いっぱいに・・・青空・・・
なんとしばらく出会わなかった言葉だろう
全てはビルの中  全てはビルの間
コンクリートの世界を行き来する
僕の生活、ああ、もっと輝け僕の生活


(97年4月)


芸術


走れ我が右の手よ! あふれ出よ我が思考の海!
とび出よ我が芸術的感性!
たとえ貧弱であろうとも  エネルギーの証として
思考と感性よ!
常に温まり、ふくらみ、互いに磨き合い 表に出よ
そして美しく輝け!
慌ただしくも退屈な日常の中になだれ込み、燃え上がり、
かすめどともりつづける美しいかがり火になれ!
そして穏やかに優しく世界を照らし、見守り続けよ・・・



時間


詩(うた)をよむ暇はなく
追い立てられるままに言葉を連ねる
美しい飾りつけは後回しと決め
そして、いつまでも置き去りにされてゆく

言葉たちよ、生活たちよ
こんな速さで置いてゆかれてよいのだろうか・・・


孤独のうた


孤独のうちに日を過ごす
何故に理解を求むのか
他人(ひと)の心は見えぬのに
「そんなことを思うなら
少しも多く働け」と
他人(ひと)の声が届くよう
答えのなきを探すなど
無駄な時間と思えども
問わずに日々を過ごすのは
息の詰まる想いにて
そっと我に問うてみる
孤独を救うにあらねども
孤独を癒す術(すべ)となる

うたえよ、うたえ 孤独のうたを
まぶたに浮かび上がる自己を守るために・・・


(97年5月)


ロボット


私は働くロボットで、しかも性能が悪い
そのことで何かが起きたり、誰かの声が聞こえたり
ダメージを受けたらキズがつく
心はないけどキズがつく
それでもくるくると動いている間はいいけど
動かなくなってきたら
とりあえず修繕に出されて  休憩して
そしてまた働きに出される
それでもまた調子悪くなったら・・・
そう何度も修繕に出すとコストもかかるから
オイルをさして働き続ける
それでなんとか目標まで持ちこたえ、目標達成したら・・・
解体されて新しいものに作り変えられる
捨てられる?いやだそれは!
だからオイルなんかさし続けないで
早いうちに作り変えられた方が
もっといいものに生まれ変われる?
だけどもし、修繕後調子良かったら?
いや、すぐにダメになったら?
わからない!!
だけど私はさびたりしたくない!!
捨てられたくない!!
私だって役に立ちたい
いやそれよりも生き生きとしたい
ロボットではいたくない!!
早く生まれ変わりたい
また生まれ変わってロボットだったら
また性能悪かったら
それでもいい 仕方がない
ただエネルギーに満ちたロボットになりたい
でももし人間に生まれたら・・・
そんな何割かの希望を胸に
毎日形は動きまくり、存在はじっとしている
私はロボット






捜してた魂がようやくここに来た
「ずいぶん彷徨っていたけれど、
 ようやくやって来てくれた
 ぶるぶる震えているけれど
 私が一生懸命あっためてあげる
 だから安心して」
魂はまだ震えている
でも、いる場所はここでいいんだ



身のまわりを片付けて


身のまわりを片付けて
新たな道へ踏み出そう
次から次へと、きれいに整頓して
新しいことを始めよう
勢いではなくて  心構えじゃなくて
心の動くままに  体の動くままに・・・


(97年6月)




パステル


我が苦しみ誰ぞ知る
パステルはすべり落ち、粉々に砕かれて
それでも欠片(かけら)でまた色を走らせる

「生活と自分との間の違和感は
 口にすれば事がふくらむ
 ただすり抜ける毎日も
 見て見ぬ振りで生きて行ける」
たとえそれが事実でも
かすかな苦しみ見に宿り
そこから生まれる活力は
行き場を求めど封じられる
ただ描かれば、この活力、
思いのままに広がりて、一時静まる
色は様々浮き上がり
ようやく部屋の片隅、飾られる

ただ我が願い
パステルの色よ 宙に散らばれ
そしてそれぞれの場所へ行け
我は欠片(かけら)を空へ投げ
それぞれが自分の場所へ散って行くのを眺めよう・・・


(97年10月頃)


風の音は美し(うつくし)

風の音は美し
今日も私は寝たきり

雨の後の曇り空
心だけでも晴れたら

私の前に広がるは
真っ暗闇か天井か

そして自然に浮かぶのは
必死に動いてた世界だ

コンクリートで埋められて
街は十字に刻まれて

さらにいくつも分けられる
コンクリートの塔並ぶ

そんな私もいつもなら
塔の中での一点だ

塔の中は大風で
機械も人も渦巻かれ

それでも懸命動いてる
色んな力で動いてる

今の私はそこを離れ
ただゆっくりと身を横にして

風の音を聴いている
うねる音を聴いている

どこから来たかは知らぬけど
静かにうなれよ 風の音

今の私は空っぽだ
素直なお前の入り口だ

風の音は美し
今日も私は寝たきり


(98年3月頃)


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