自爆テロ




      人生に失敗したので爆弾を作った
      場所はカフェがいいな
      とりあえず街に出かけた

      中世の面影を残す門をくぐったとき、
      刻まれた紋章が俺の勲章に見えた
      足の裏に石畳がズンズン響く

      目の前が開けたら中央広場
      噴水に犬が2,3頭
      飛び込んだり出たりしている
      それを囲んで360度
      笑い声、うるさい

      路地から一番近いオープンカフェ
      すまないね
      やっぱ法廷で、死刑の宣告と共に
      決めゼリフでメディアを支配したいもんで

      仕掛け時計が15時を告げた
      噴水が一際大きく吹き上げて
      水の幕ができた
      その向こうに かすかに
      誰かが走ってくる姿が見える

      女だ

      いつのまにか女は俺の前にいた
      息を切らして
      ずぶ濡れで

     「間に合ってよかった!」
     「ジャマすんなよ」
     「私、あなたに会うために生まれてきたの」
      頭がおかしいのか
      女は滴をしたたらせた顔に
      至福の笑みを浮かべていた

     「そういうわけで」そう言うと
      俺の手から爆弾を奪い
      女は路地へ向かって走り出した

      一瞬、唖然
      しかし我に返り慌てて追いかけた
      返せ、俺の名誉!
      女は門をくぐると左に曲がった

      門から生ぬるい空気が入ってくる
      俺の体を包み、くすぐり始めた
      あまりの心地の悪さに足を止める
      次第に体全体が熱を帯び
      一気に血液が上昇
      朦朧としながら呟く
      何なのだ、この状態は!

      やがて、中途半端なにぶい爆発音
      
      それを聞くと全身の力が抜けた


      翌日カフェはにぎわっていた
      街はずれの墓地で
      小さな爆発があったと
      人気のタルトの次に話題になった


      許せない
      絶対に許せない
     
     (あなたに会うために生まれてきたの)
      
      体の震えが止まらない
      寒いのに汗が止まらない


      もう二度と爆弾は作れなかった



A・E・I・O・U



      結婚しよう
      感情なんてどうでもいい
      ハイ結婚した
      子が生まれた
      配偶者が死んだ
      土地が手に入った

      結婚させよう
      子供たちを結婚させよう
      本人の意思はどうでもいい
      ハイ結婚した
      孫が生まれた
      子供の配偶者が死んだ
      土地が手に入った

      祖先が残した A・E・I・O・U
      私はそれを信じている
      ねたんでるの?やっかんでるの?
      私はケンカが嫌いなのよ

      私の首が欲しけりゃ
      くれてやってもいいけれど
      あんたここまで来るのに
      何人の首を取ったのさ
      土地をやるから、さっさと帰れ!

      ・・・・・・・

      親愛なる可愛いオットーへ
      私ももう長くない
      みんな旅立った
      土地を狙うヤツは後をたたない

      オットーよ
      私が教えたいことは一つ
      
     「結婚せよ」

      お前は私の名前の入ったこの手紙を手に
      世界中を周るのだよ

      それでは、ごきげんよう

      A・E・I・O・U





営業課長ダントン


      ダントン課長は本来は古いタイプ
      事務職のお姉さんたちがウルサイから
      お茶を自分で入れて飲んだ

      ノルマのこなせない私に
      容赦なく怒鳴るくせに
      飲み会ではセクハラ
      帰り際こっそり
     「仕事なんて出来んでいい」と囁いた

      私はいつも笑っていた
      けれどお酒が回ると
      力いっぱいの涙
      夢の中で何度も
      クソダントンに吠えた

      病欠が増える
      ダントン課長はしかめ面

      ある日私は
      人事のロベスピエール課長に呼ばれた
     
     「今の仕事量、自分でどう思う?」
     
      コイツはクソダントンの同期!!

      力いっぱいの涙
      夢の中で
      クソダントンと
      クソロベスピエールに
      まとめて吠えた

      晴れて自由の身になった
      平日の昼間から飲む
      ビジネス街のレストランで
      独りでランチのついでに飲む
      窓際の席から見上げるビルの
      13階にフォークを突き刺す!

      フォークの隙間から
      紳士の影がちらり
      ガラス越し
      口の動きが「ダントンだよ」と言った

      何故に相席?
      とまどうものの
      グラスのワインをブッかける気にもならない
      
      解放されたような表情で
     「ロベスピエールはクソマジメなんだよ」
      そう言って笑いながら
      一枚の名刺をテーブルに置いた

     「株式会社テルミドール 営業担当 ダントン」
     
      そこには確かに
      書類で見た
      電話で話した
      会社の名前

      しばし動けぬ私を置いて
      勘定済ませて外に出る
      慌てて後を追ったら
      ビル群の上には まだ青空がいた
 
     「明日、庭園にでも行くか?」
      空を見たまま
      ダントンさんは言った
      
      私はただ、アスファルトの熱にのぼせた
      



流線型のお母さん


      さっきまで笑ってたお母さんが
      突然、鬼のような形相になった

      お母さんの頭は
      みるみる流線型に変化し突進してきた
     「危ないやんか、おか・・・」

      言い終える暇はなかった
      間一髪で交わし
      お母さんは台所の壁に刺さった

     「今のうちや」
      お母さんが頭を壁から引っこ抜いてる
      その間に玄関から外へ出て
      裸足のまま走った
      振り返ると
      お母さんが玄関から出てきたので
      焦ってもっと走った

      4丁目を過ぎると苦しくなってきた
     「もう走れない」
      いつの間にか街まで来てた
      後ろを見ると
      お母さんはどこにもいなかった

      途方にくれて歩き出す
      こぼれそうな涙を抑えて
      何も持たずに

      おなかすいた
      セックスもしたい

      そう思うと
      ちょっとだけ歩く力がわいて来た

      さがすさがす
      何をさがしているのか自覚なしに
      ズンズン歩く
      そのうち目が輝いてくる
      
      そこへ
      食べ物を持った男性が通りかかった

      「全部、お願いします」

      そうして一緒に住むことになった
      とにかくキャンキャン抱きつくと
      ご飯を持って来てくれる
      
      そのうち子供が生まれた
      私もご飯をさがす
      それを見て男は
      時々酔って手ぶらで帰ってくるようになった

      あるとき
      キツネが家の前に集まり始めた
      なんかめずらしそうに我々三人をのぞく
      
      次第にキツネの数が増えてきた
      引っ切り無しにやって来ては
      こっちが振り返るだけで
      キャーキャー言ってはしゃぐ

      一匹のキツネが
      街で買ったお惣菜を
      縁側に置いていった
     「はあ、では今晩のおかずに、どうも」
      遠慮なく頂いた
      
      すると「キャー」と鳴いて大騒ぎになった
      次第に来るキツネ来るキツネみんなが
      お惣菜を買ってきては縁側に置いた

     「ごんぎつねにしては、あからさまやね」
      そう三人で顔を見合わせつつも
      向こうも喜ぶのでどんどん頂く

      そんな日が何年続いたろう
      もちろん今も幸せに暮らしている
      子供もずいぶん大きくなった
      キツネがくれるお惣菜は一品ずつになったけど
      我が家を見に来るキツネは後を絶たない

      ただ一つ、最近小さな変化が

      お母さんと再会したのだ
      頭は流線型だけどシワシワになってた
      お母さんは時々訪ねてきては
      涙を流しながら
      パックに詰めた佃煮をくれる

     「お母さんも弱くなったねぇ」
      そう言うとお母さんは
      いっそう泣いて
      私の子供に佃煮を手渡し
      玄関の外を指差すのだった

      そんなときお母さんは
      頭の先端を一層尖らせていた
      



クレージュ

      二つの知恵の輪
      ネックレスに通して
      チリチリいう音を聴いている
     
     「時間だよ」
      そう言われたから一つ返した

      ドアを閉めるとき
      忘れ物に怯える
      外に出ると
      街のにぎわい

     「神様、今日も頼んだよ」
      って、にぶく微笑んだ

      ホームの売店で買った
      清涼飲料水を飲む
      入ってきた電車に
      前髪をいじられて
      さっきとおんなじ顔になった

      午前一時から十分間の夜道は
      空のペットボトルだけが味方

      道のど真ん中
      クレージュのネックレス
      大きく揺れる

      この世界に
      この刹那に
      対角線を引きながら

      私以外の全ての人へ
      ごめんなさい
      これからも生きていきます

      そう呟いて胸を反らせたら
      月がしっかり見ていた



エピプロ−希望だけ残して−

      琥珀色の部屋
      細い指先が伸びれば、
      全てが開放されて
      あたりに充満する

      あの日から
      いくつもの罪を
      学問と呼ぶことで
      耐え忍ぶ人たちのほんの一部が
      かろうじて名を残した

      パンドーラ
      どんな夢を見ましたか
      ロックの氷が
      溶けてゆきます

      今度目覚める時には
      妊娠したり
      育てたりして
      笑いながら過ぎてゆく
      そんな人になっていたい

      柱時計が鳴り響いています
      グラスに目を細めていると
      頬杖の腕が痛くなってきました

      明日の準備の前に
      ジュエリーボックスを覗くと
      なんだか笑えてきちゃいました

      おやすみ
      またいつかお話しましょう


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